介護老人保健施設 ゆめの杜

 

「閉じた空間に表情をつくる」

最初にお話を頂いて施設を訪れた時、豊かな自然に囲まれ、目の前には美しい湖が広がり、一日中太陽の光が差し込む非常に恵まれた立地環境にありながら、施設内ではそれらをほとんど感じることができず、さらに仕上材・設備等の老朽化や劣化により、薄暗い空間が建物の閉鎖感を一層強めていました。そのため建物の老朽化対策と共に、入居者の方が毎日過ごす生活空間に、豊かな外部環境をうまく取り込むことが出来ないかと考えました。

介護施設という用途の性質上入居者が自由に外部に出ることは少なく、また足元の不安や車椅子利用者も多いことから、視線はどうしても下に集まり、閉鎖的な空間になるのは仕方ありません。しかし長い時間を過ごすからこそ、時間の変化や四季の移ろいを感じることができ、みんなが自然と上を向くような空間にしてあげたいと考え検討を重ねていきました。

プロジェクトの最も大きな特徴としては、施設全体に施工したやや艶のある地場木材「シオジ」の不燃突板天井です。艶によって水彩画のように柔らかく自然光を反射するこの天井は、朝陽から夕日、日没後の暗闇、天気や山々の四季の表情などを内部空間に取り込むと共に、人の動きやイベント等内部での活動も反射し、内部空間に動きや賑わいを作り出します。同じ場所でも時間や季節によって全く異なる表情を見せる艶やかな天井は、人々の視線を自然に上へと導きます。

一方、下足利用のため汚れやすい床には、安全性だけでなく汚れが目立ちにくく施工性の良い素材を採用し、壁については天井を際立たせ、水平方向に広がりを作るため、シンプルで明るいものとしました。

外部では、老朽化により色褪せた外壁に加え、何の建物か判別しづらかったファサード、暗いアプローチと分かりにくい動線計画等を大幅に見直し、施設内の雰囲気が外部にも溢れ、自然と来訪者を内部に導くような、明るく分かりやすいデザインに変更しました。

工事中は、入居者の生活とデイサービス業務を運営上継続する必要があり、工法や工程、振動や音の問題等の制約が大きいため、基本的な工法はすべて既存の上からカバーする形を採用し、工期短縮と効率化を図りました。ただし、不要な壁や設備等は出来るだけ解体撤去し、内部空間を最大限明るく開放的なものにするため、入居者への振動や工事騒音、ほこりなどに配慮し、解体工事は区画を細かく分けることで、非常に短期間で効率的に進められました。

入居者、スタッフともに多くの時間を過ごす施設だからこそ、安全性だけでなく、環境の変化や時間の移ろいを感じ、自然と上向きになる魅力的な空間になることを期待しています。

 

 

設計   : 2016.3 ~2017.01 

種別   : 改修 

面積   : 1821.1㎡ 

敷地   : 広島県、日本
施工   :パナソニックES建設エンジニアリング株式会社
企画PM :株式会社コア

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