前橋の住宅

 

「四つのボリュームと三角の庭」

分譲地特有の整然とした区画割りにより同じような風景が連続するコンテクストが希薄な周辺環境の中で、限られた敷地を最大限に活用すると共に、新しい文脈を与える事で内部だけではなく周辺に対しても小さな変化を及ぼす事を考えました。

まず、必要諸室をコモンとプライベートの2つのボリュームに分け、接道する北側に個室や水廻りのための比較的閉じたプライベートなボリューム、周辺が開けた日当りのいい南側にリビング•ダイニングやキッチンなど家族の集まるコモンスペースのためのボリュームを配し、それら性格の異なる2つのスペースの間を繋ぐようにフリースペースを配置します。プライベートなボリュームは1階に親世帯、2階に子世帯として適度なプライバシーを保ちつつもフリースペースを介してお互いの気配が感じられるような空間としました。

また、北側2階の大きな開口部は内部のプライバシーを保ちつつ、袋小路で暗くなりがちな前面道路に灯りという安心感を提供します。南側に配したコモンスペ−スのボリュームは、周辺の開かれた環境を最大限に取り込むために一層吹き抜けの開放的な空間とし、周辺の建物や庭に合わせて角度を振ることで、隣地との視線の干渉を和らげると共に、建物周辺に三角形の庭をつくりだします。

不整形な三角形の庭は整形な同面積の庭よりも奥行きができ、内部からの視線は敷地から隣地の庭、その先の道路や住宅へと引き延ばされ、実際の面積以上の視覚的な広がりを生むと共に敷地境界を曖昧にしています。大きな土間の玄関や家族のギャラリーなど多様な活動を誘発するフリースペースは、コモンとプライベート双方の機能を拡張したり補塡しながら、季節の移ろいに合わせてフレキシブルに変化することで生活に彩りを与えます。

どこにでもあるような分譲地の中で、一つの住宅が周辺環境にとっていままでにない新たなコンテクスト(文脈)となり、慣習的な分譲地住宅に新たな展開を見い出す一つの素形となることを期待しています。

 

 

設計   : 2016.1 ~2017.11 

種別   : 個人住宅 

敷地   : 前橋市、日本 
敷地面積 : 202.08㎡ 

建築面積︰74.47㎡ 

延床面積︰122.59㎡ 

構造  ︰木造軸組工法
構造設計︰株式会社 ロウファットストラクチュア
施工  ︰有限会社 安松託建
写真  : 鈴木研一

「2019ぐんまの家」設計・建設コンクール 優良賞 受賞